「ぐっ……! 【ボルカニック・フレイム】!!」
俺は、こみ上げる吐き気を抑えながら、上空に向けて火魔法を放つ。
だが、炎は彼らの前に浮かぶ漆黒の障壁に触れると、まるで吸い込まれるようにして消えた。
いや、正確には“消された”のではない。
“取り込まれた”のだ。
炎の熱すら伝わらないその無慈悲な結界に、背筋が凍る。
「あがっ……!」
返す刀のように、体内を駆け巡る激痛。
無理な魔法行使で生まれた隙間に、瘴気が容赦なく流れ込んでくる。
肺が焼けつくような圧迫感。
意識が一瞬、飛びかける。
『ふふ……。かわいそうに。なまじ力と知恵があるだけに、そうして苦しむことになる』
『この世界に、色なんて不要。光も要らない。ただ、闇だけがあればいい。手始めはこの白夜湖だ』
空に浮かぶ双子らしき存在が、冷たい声で囁く。
彼らは黒い翼をゆっくりと広げ、闇の空に馴染むように佇んでいた。
アレは『人』なのか?
あまりにも歪な存在感。
形容しがたい不気味さが、皮膚の下にまで染み込んでくる。
『さあ……。世界を真っ黒に――』
『染めてあげよう』
『『【黒耀曼荼羅(こくようまんだら)】』』
その宣言と同時に、双子は両手を前に突き出した。
掌から放たれる黒い波動は、空間そのものを揺らし、地の理すら歪ませる。
まるでこの世界が、黒のペンキで再描写されるような錯覚すら覚えた。
この軌道は……マズい!!
「ミティ! 流華!! みんな、逃げろぉおおぉおおっ!!」
喉が裂けそうになるほどの叫び。
だが、声は間に合わない。
黒の波動が速度を増して地を這い、空気そのものを染めていく。
たとえ今から全力で逃げたとしても――無理だ。
あの闇には拡散性がある。
まるで俺の全力火魔法のように、広範囲に及ぶ力だ。
「っ!!」
俺は覚悟を決める。
――チートのおかげで強くなりまくった俺。
何らかの面倒事に巻き込まれて記憶喪失にはなってしまったが、チート自体には感謝しかない。
紅葉や桔梗という美少女と仲良くなれたし、流華という弟分もできた。
ミティという最愛の妻もいる。
激痛と共にまだ思い出している最中ではあるが、他にも愛する女性たちがいたように思う。
いずれも、俺には過ぎた者たちだ。
俺が得た、身の丈に合っていないチート能力。
それは、こんなときにみんなを守るためにあったのだ。
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