(景春と早雲は不在か。まぁ、そういう方針だもんな)
軽く頭を巡らせると、すぐに思い浮かぶ有能な配下の名がいくつもあった。
だが今は、この場にはいない。
桜花藩の重鎮と呼ぶべき有能な人材でここにいないのは、8名ほどだ。
前藩主の桜花景春。
かつては独裁政治を行っていたが、今や俺の調ky――じゃなくて説得により、すっかり牙が抜けた。
お転婆少女としての立ち位置に落ち着いている。
だが、その血統妖術『散り桜』は健在で、受けに関しては右に出るものがいない。
そのため、彼女は桜花城の守護者として、城に常駐してもらっている。
俺が気まぐれで留守にしても、直ちに城の防衛体制が瓦解するなんてことはない。
正直、ありがたい存在だ。
桔梗の祖父にして武神流の師範である、柊木早雲。
老齢ながらも、その剣技の冴えは未だに鋭い。
剣術のスキルレベルが5というのは、やはり強力だ。
しかし、身体の衰えや突発的な病などのマイナス要素を抱えていることも事実。
そのため、彼には戦場ではなく後方支援に回ってもらっている。
具体的には、桜花城で城務めの侍たちを訓練したり、城下町の武神流道場で市井の者に指導したりといった感じだ。
彼の存在は桜花藩全体の剣士層の底上げに大きく貢献している。
そして、桜花七侍――その中で今ここにいるのは無月だけ。
他の6人、樹影、雷轟、金剛、夜叉丸、蒼天、巨魁は、それぞれの持ち場で活躍している。
全員が実力者であり、閑職に回すには惜しい人材ばかりだ。
ただ、加護(小)の条件を満たしていない、つまり、俺に絶対の忠誠を誓っているとは言い難い面もある。
だからこそ、適度に距離を保ちつつも、桜花藩のために働いてもらっている。
信用はしている、だが依存はしない。
桜花七侍に対しては、そういった距離感がちょうどいいだろう。
別に冷遇しているわけではないし、定期的に忠義度もチェックしている。
反逆のリスクは限りなく低い。
「さぁ、紅葉。遠慮せず近くに来い。かわいい顔を見せてくれ」
「はっ、それでは」
紅葉たちが俺のもとへと静かに歩み寄ってくる。
控え目に頭を垂れながら、彼女たちは一糸乱れぬ動きで俺の前に膝をつく。
その動作には無駄がなく、同時に、厳かな緊張感すら感じられた。
それを見て、俺は気を引き締めた。
公式の場でなければ礼儀なんてどうでもいいと、何度も伝えている。
堅苦しい形式ばかりに囚われず、もっと気楽にやっていいと。
だが、今の彼女たちは改まった態度を崩していない。
それはつまり、今回の話がそれだけ重大ということだろう。
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