「か、仮面をつけているからですか……? 顔を見たら、思い出していただけますか?」
彼女の声は、祈るように細く、かすかだった。
俺はただ頷く。
確証は持てない。
だが、何かしらのことを思い出す可能性は大いにある。
俺の頷きを見て、豪傑は仮面を外した。
その素顔があらわになる。
「っ!?」
その顔を見た瞬間、俺の脳裏に電流が走った。
いや、電流なんて生易しいものじゃない。
まるで、脳に焼きごてを当てられたかのような衝撃だった!
「み、ミティ……」
「タカシ様……。良かった! 思い出していただけたのですね!」
豪傑……いや、ミティが嬉しそうに微笑む。
いったい何日ぶりだろう?
彼女の顔を見るのは。
まるで故郷に戻って来たかのような安心感と多幸感に包まれる。
だが、その喜びも束の間。
ミティの記憶が呼び水になったのか、俺の脳内に膨大な情報が流れ込んできた。
「お、おおおぉ……!! あああああぁぁあああぁああっ!!!!」
頭を両手で押さえ、俺はその場に崩れ落ちた。
焼けつくような衝撃が、こめかみから脳髄全体へと突き抜けていく。
まるで内側から氷の楔でも打ち込まれたかのように、視界がひび割れ、全ての感覚が遠ざかっていく。
痛い。
痛すぎる。
これは……もう、痛みの範疇を超えている。
頭が割れる?
いや、それどころじゃない。
脳が……爆ぜるっ!
「た、タカシ様!?」
耳の奥にかすかに届いたミティの声は、氷の中から叫ぶようにくぐもっていた。
焦りと恐怖の色を帯びたその声に、反応したかった。
しかし――申し訳ないがそれどころじゃない。
頭の内側で何かが膨張していく。
次から次へと流れ込む情報。
記憶か?
いや、もっと根源的な、存在そのものを構成する何かが。
圧倒的な密度と速度で、俺の中に注ぎ込まれてくる。
「てめぇっ! 兄貴に何をした!!」
「主から離れろ!!」
「高ちゃんっ! 今、助けるからね!!」
怒号が響く。
距離を置いて様子を窺っていたはずの流華、無月、幽蓮が、突如としてミティに向けて飛びかかろうとしていた。
彼女たちの目には、ミティが俺に攻撃を仕掛けたように見えたのだろうか。
流華たちが、迷いもなくミティに敵意を向ける。
緊張が空気を裂いた。
4人がバトルモードになり、周囲の空気がざわめき始める。
「ま、待て……! 争う必要なんて――がっ!?」
俺は苦痛に顔を歪めながらも、なんとか立ち上がり、止めようと声を上げた。
その瞬間だった。
胸の中央、心臓の辺りに鋭い衝撃。
黒いモヤが、無音の稲妻のように俺の胸を貫いた。
「「っ!?」」
みんなが息を呑む。
俺も含めて、誰も気付けなかった。
いつの間にか……強大な気配を持つ『何か』が、俺たちのすぐ傍まで接近していたことに……!
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