「こ、これは一体……!?」
道場の門が破られている。
庭ではたくさんの見知らぬ男たちが倒れており、どれもピクリとも動かない。
師範と桔梗は無事だろうか?
俺は道場の中に入った。
「師範!」
「……おお。高志坊か……」
道場の中央に、師範が立っている。
その足元には、数人の男たちが倒れ伏していた。
師範は無事だ。
しかし、その表情に覇気はない。
いや、覇気がないどころか、今にも倒れそうな顔色である。
「何があったんですか!?」
「……道場潰しじゃ。武装した集団に、襲撃されたのじゃ……」
「道場潰し……」
俺は呟く。
おそらく、ここにいる男たちも道場を襲撃に来たのだろう。
だが、その大多数は『中の下』ぐらいの力量と見受けられる。
師範の敵ではないはずだし、桔梗の技量をもってすればあしらえるレベルだろう。
なのに、この惨状は……?
俺は師範に尋ねようとするが、それを口にする直前に気づく。
「師範。その、お怪我は……」
「儂なら平気じゃ……」
「しかし……」
師範の右腕が、変な方向に曲がっている。
せっかく俺が治療したのに、また同じところの骨を折られるとは……。
それに、額からは少なくない量の血が流れている。
この怪我で立っているなんて、普通じゃない。
それどころか、意識を保っていることさえ異常だ。
「儂の怪我など気にするな……。それよりも、桔梗を……」
師範はかろうじて首を動かし、ある方角を見る。
あっちの方向は……確か、他流派の道場がある方向だ。
「桔梗が、さらわれて……」
「分かりました。俺が行きます。ですが、その前に……」
俺は師範に治療魔法をかけることにした。
だが……さすがに怪我が大きすぎる。
短時間で完治させるのは無理だ。
それに、時間をかけて怪我を完治させたとしても、体調面で全快に至るわけではない。
失われた血は戻らないし、戦闘による疲労も蓄積されているだろう。
「――【ヒール】」
俺は治療魔法を何度かかけ、師範の顔色が少し良くなった。
この分なら、少なくとも命に別状はないはずだ。
まだまともには戦えないだろうが、圧倒的な格下ぐらいなら追い払えるだろう。
「礼を言う……。儂が……儂がもっと若ければ……。不甲斐ない……」
「いえ。とにかく、俺は桔梗を助けに行ってきます」
「……頼んだぞ。高志坊……、どうか桔梗を……」
師範は気を失う。
最後の気力を振り絞って直立を崩さなかった彼だが、俺が現れたことにより安心したのだろう。
そんな師範の体を床に横たえ、俺は立ち上がった。
「桔梗……。無事でいてくれ……!」
俺は道場を後にする。
そして、桔梗がさらわれたという方向に向かって走り出したのだった。
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