【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1734話 裏漆刃の裸漢

公開日時: 2025年5月1日(木) 12:10
文字数:1,185

 俺は豪傑のすぐ近くまで到達する。

 彼もまた、こちらに気付いたのか、仮面越しに鋭い視線を向けてきた。

 ずしりと重い、言葉にしがたい圧力が空気を支配する。

 やはり只者ではない。

 身長こそ思っていたよりも低いが、その分、周囲を圧倒する存在感が際立っていた。


「お前が『美しき帝王』か? 大層な名前だ」


 俺は挑発気味に言い放つ。

 声音はあくまで軽く、しかし言葉の端にわずかな棘を忍ばせた。

 狙った獣がこちらに牙を向けるのを待つ狩人の、無言の誘いだ。


 相手の真意を計りたい。

 気を緩めさせ、その一瞬の綻びに切り込む。

 お互いに仮面を付けている今、それのみが有効な手だ。


「……そういうあなたは……変態ですか? 全裸に仮面で挨拶をしてくるとは、著しく礼儀に欠けるようですが」


 返ってきた声に、俺はほんの一瞬だけ眉をひそめる。

 仮面越しのため少しくぐもっているが、その声音はどこかしら女性的で、透明な硝子のような響きを含んでいた。

 しかし、考えてみれば当然か。

 背が低めならば、声は高めになる。

 物理的にも生物的にも妥当性のある事象だ。


 背丈や声質に惑わされてはいけない。

 この人物からは、ただならぬ重圧が絶えず滲み出している。

 まるで、こちらの心の奥を覗き込むかのように。


「礼儀に欠けるのは、お互い様だろう」


 俺は仮面の奥から、静かにそう返した。

 心の中では、仮面の意味と、それを外せない理由を繰り返し噛み締める。

 身分が露見することは避けたい。

 敵か味方かの判断がつかない今、それは致命的になりかねないからだ。

 何より、額の奥に棲みついたあの鋭い痛み――あれが警告のように脈打つ限り、俺は仮面を外すわけにはいかないのだ。


「あなたと同列に語られるのは、とても不本意ですね。こちらにも事情があるのです。とはいえ、場合によっては仮面を外してもいいのですが……あなたのお名前をお聞きしても?」


 言葉とは裏腹に、その口調には柔らかな揺らぎがあった。

 まるで、刃の上を渡る舞踏のように、優雅で、そして隙がない。


「俺は裸漢(らかん)だ。桜花藩暗部の裏漆刃(うらうるは)に所属している」


 もちろん偽名だ。

 そして、所属先も道中で考えた適当なものである。

 漆刃所属の流華たちを助けにきた勢力なので、”裏漆刃”というネーミングセンスは悪くないはずだ。


「らかん……裸漢? 裸の男ということですか。いかにもな偽名ですね。本名を言ってください」


 あっさりバレた。

 微笑すら浮かべずに問うその言葉は、真実を貫く槍のようだ。

 思わず、肩に力が入る。


「……高橋だ」


 無意識に、口が動いていた。

 本来なら絶対に明かさぬはずの名だが、この豪傑の圧に飲まれてしまったのだ。

 かろうじて、”高志”という名までは伏せたものの、自分の甘さを噛み締める。


 ヤマト連邦の慣習が、せめてもの盾になると信じた。

 親しい間柄を除き、下の名前ではなく家名で呼び合う。

 その文化が、この曖昧な答えを正当化してくれるはずだ。

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