「さぁ、勝負です!」
仮面越しに響く豪傑の声音は、曇りなく晴れた空のように清々しかった。
対する俺も、自然と口元が緩む。
「来い、美しき帝王」
俺はあえて受けに回る。
無論、油断しているわけではない。
初手から全力でねじ伏せるのも一つの手だが、それでは相手の奥行きを見誤るかもしれない。
力だけでは測れない何かを、この男は隠している気がした。
だからこそ、じっくりと底を探りたかった。
豪傑の得物は、見るからに重たそうな巨大なハンマーだ。
鉄の塊をそのまま削り出したかのような無骨な造形だが、手入れは行き届いており、使い込まれた武器特有の禍々しさが滲み出ている。
背丈は小さいが、仮面によって表情が読めないことで独特な威圧感を放っていた。
腰には革袋。
その気配は妙に生温かく、ただの道具ではないことを物語っている。
妖具――何らかの異能を宿す器か。
警戒を強める俺の鼻先を、乾いた土の匂いが掠めた。
ざらり、と足場を踏みしめる重い音。
地面がわずかに振動したその瞬間、俺の神経は一点に集中する。
豪傑が短く息を吐き、腰の革袋へと手を突っ込む。
その動きに迷いはない。
「ふんっ!」
豪傑は拳ほどの石を掴み、それを全力で投擲してきた。
空気を裂く、鋭い音。
飛来する石の軌道は速く、まるで矢のように一直線だ。
直撃すれば骨に響くだろう。
俺は咄嗟に身をひねり、ぎりぎりのところで石を避けた。
しかし、次の瞬間、視界に黒い影が飛び込んでくる。
回避した先には、既に豪傑が肉迫していたのだ。
「どりゃあっ!!」
怒号と共に、振り下ろされるハンマー。
その軌道は重力すら巻き込むかのように重く、速い。
全身に危険信号が鳴り響く中、俺は反射的に両腕を交差させて防御を取った。
「うおっ!?」
俺は思わず声を上げる。
視界を埋め尽くすほどの巨大なハンマーが迫ってきたのだから、それも当然だろう。
しかし、よく考えれば身構える必要はなかった。
ひらり、ひらりと、桜の花びらが舞い散る。
攻撃を受けた箇所に痛みはない。
傷一つつくこともなく、ただ桜が舞うのみだった。
花びらたちは光を帯びて回転し、元通りに俺の体を再構成していく。
今は全裸なので関係ないが、肉体だけではなく装備も再構成される優れた妖術だ。
その様子を、豪傑は目を見張って見ていた。
「面妖ですね……。その花びらは何ですか?」
豪傑がぽつりと呟く。
俺は苦笑しながら、答えた。
「桜花藩の秘伝さ。まさか、これほどすぐに見せることになるとは思わなかったぞ。いい一撃だ」
言いながら、自分でも意外だった。
普段ならここまで早く切り札を見せることはない。
この技を序盤から引きずり出されるほど、豪傑は強かったのだ。
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