「せめて仲間たちだけは守ってみせる……! 【闇の極大螺旋】!!!」
俺は叫ぶように詠唱し、闇の魔力を叩きつけるようにして解き放った。
胸の奥から絞り出したその一言に、空気が震え、地面に走った亀裂から黒煙のような魔力が噴き上がる。
視界が歪み、世界の色が褪せていく。
闇が、あらゆるものを呑み込むように広がっていく。
これは、瘴気を吸収する技だ。
まるで深淵の底から立ち昇る渦巻きのように、黒い魔法陣が空中に展開される。
重力すらも狂ったように引き寄せられている感覚に、足が震えるのを必死に堪えた。
今の俺なら、かなりの広範囲を吸収できる。
いや、そうでなければ意味がない。
拡散性のある闇魔法も、俺が吸収しきってしまえば問題ない。
全てを、この身一つで受け止める覚悟だ。
「タカシ様ぁっ!!」
耳をつんざくようなミティの叫びが飛ぶ。
声の震えに、彼女の恐怖と哀しみが滲んでいた。
「兄貴ぃいぃいっ!!」
続けざまに、流華の絶叫。
鼓膜に焼き付くようなその悲鳴に、俺はかすかに微笑んだ。
心が、揺れる。
すまない、みんな……。
本当は、もっと一緒にいたかった。
ミティや流華たちだって、事情を話せばきっとお互いに仲良くなれただろう。
みんなで桜花城の天守閣でゆっくりしたり、サザリアナ王国に招待したりなんて未来もあったはず。
だがもう、痛みで意識が朦朧としてきた。
全身を針で突かれるような激痛が走る。
血管を這う闇の瘴気が、肉体の限界を超えて内側から俺を蝕んでいる。
俺はもはや意識を保つことすら難しくなりつつあった。
瞼が重く、視界が霞む。
「思い出を……ありがとう……」
かすれた声で、誰にともなく呟いた。
脳裏に浮かぶのは、ミティの笑顔、流華の生意気な表情、仲間たちの喧騒。
俺の居場所だった。
だからこそ、俺がここで守らなければならない。
最後の気力を振り絞って闇魔法を強めた。
「うおぉおおおおおっ!!」
声が喉を裂く。
魂の叫びだった。
全ての瘴気が、俺の体内に向かって吸収されてくる。
皮膚が焼けるように熱い。
内臓が捻じ曲がる感覚に歯を食いしばる。
『なっ!?』
思わず漏れる、双子の一人の動揺。
『ば、馬鹿なっ! この白夜湖を黒く塗り潰すはずの瘴気が……猿一匹ごときに!?』
もう一人の声が続く。
想定外だったのだろう、彼らにとっても。
この状況、この選択、この執念――すべてが。
なら、ここは俺の勝ちとも言える。
残るのはわずかな誇りと、仲間への想いだけだった。
「ふふ……ざまあみやがれ……。みんな、あとを頼む……」
俺は不敵な笑みを浮かべると、そのまま意識を失ったのだった。
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