「兄貴? ほ、本当に大丈夫なのか?」
流華が心配そうに身を乗り出す。
彼の瞳は不安げに揺れていた。
かすかに震える声が、その胸中のざわめきを如実に物語っている。
だが、俺は微笑を浮かべ、動揺を悟らせまいと心の奥底で感情を押し込めた。
「心配するな。俺を信じろ。流華たちは、ここから応援していてくれ。それが俺の力になる」
胸の奥から搾り出すようにして、俺は答えた。
空気が一瞬、静止する。
流華の瞳が潤み、その表情に決意が宿るのが見えた。
彼は小さく息を呑み、やがて拳を握りしめる。
「あ、ああ。分かった!」
その言葉には、彼なりの強さが込められていた。
頷くその動作には、揺るがぬ信頼と、何より俺の背中を見送る覚悟がにじんでいた。
だが、次の瞬間、彼の顔がふと曇る。
何かを思い出したかのように、わずかに眉をひそめて言葉を紡いだ。
「……最後に、一つだけいいか?」
「なんだ?」
俺は一瞬、警戒を込めて眉を寄せた。
まさか、この場に来て問題が?
そんな思考をよぎらせたのは、まったくの杞憂だった。
「兄貴、どうして全裸なんだよ?」
間の抜けた質問に、俺は思わず肩の力を抜いた。
「正体を隠すためさ」
普段なら気にも留めないことだが、今は状況が違う。
桜花藩の主要戦力を各地に散らし、桜花城の守りを景春に一任している。
安心といえば安心だが、それでも俺の不在を他藩や行商人あたりに悟られるのは避けたい。
だからこそ、俺はここまで全裸で来た。
”服装”というヒントがなければ、俺の正体に気づく人は減るはず。
恥も外聞も、今は二の次だ。
「変態じゃねぇか」
流華がぼそりと呟く。
「失敬な。大事なところは炎で隠してあるぞ。それに、今はこうして仮面も付けている」
俺は誇らしげに胸を張った。
火魔法と火妖術を操る俺なら、股間部だけをピンポイントで隠すことも可能だ。
確かに見た目のインパクトは否定できないが、これは戦略の一環である。
「いや、それはそれでますます変態みたいだって。つーか、寒くないのか?」
「炎があるから暖かいさ」
俺は淡々と答える。
俺の肉体は各種のスキルにより常人を遥かに超えて強化されている。
気温差など、さほどの意味をなさない。
加えて、股間部に集中させた炎が温度調整を担っている。
全裸でも風邪をひくことはないだろう。
「……そうか。兄貴が言うなら、そうなんだろうな……。いや、本当にそれでいいのか? うーん……」
流華はまだ納得しきれていない様子だったが、それ以上は追及しなかった。
ある意味、信頼の証かもしれない。
「じゃあ、行ってくる」
俺は流華たちに背を向け、ゆっくりと歩き出す。
目指すは、豪傑の元。
あの男との対峙は避けられない。
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