「っ!!」
かわしきれず、俺の頭部が仮面ごと吹き飛ばされる。
ダメージはない。
桜と化して、物理攻撃は無効化されている。
……しかし、やはり凄まじい威力だな。
腕力が特に優れているが、決してそれだけではない。
身体全体をしならせ、重心移動まで計算した投擲。
無駄のないハンマーのモーション。
俺の行動を先読みした接近。
戦い慣れている者の動きだった。
だが、同時に引っかかる点もある。
俺が反撃の素振りを見せていないという理由もあるだろうが、豪傑は自身の防御を意識していない。
大きめの外装を纏ってはいるが、防具の類は最低限。
本人の回避能力も、さほど高くはない様子だ。
そして、攻撃方法も物理に特化しすぎている。
懐の妖具は、アイテムバッグの類だろう。
中に大量の石が入っているようだが、あくまでそれだけだ。
属性攻撃系の妖具はないし、妖術の素養も高くないと見える。
俺の『散り桜』を突破するための工夫も、皆無だ。
純粋な攻撃一辺倒。
まるで、個人戦ではなく、誰かと連携して戦うことを前提に成長してきたかのような……。
そんな不自然さを感じさせる。
「ぐっ……!?」
ズキッ!!!
不意に、頭を針で刺されたような痛みが走った。
脳が軋む。
まずい。
こんな強敵を前に、思考に耽る余裕はない。
今はただ、血統妖術『散り桜』を維持すればいい。
それだけで、俺に敗北はないのだ。
戦いに集中しよう。
胸の奥で静かに、だが強くそう決意した。
頭部と仮面の修復を終えた俺は、豪傑に向き直る。
「……一つだけ言っておく。そんな愚直で単調な攻撃では、絶対に俺は――」
「【ジャガー・メテオ】!!」
声を被せるように、怒号が飛ぶ。
俺の言葉を遮った。
間髪入れず、無数の石が矢のように俺に襲いかかる。
当然、俺は桜化している。
ダメージはない。
しかし、視界一面を覆う石礫の嵐に、思わず肩を竦める。
「レオ……ボンバー!!!」
怒号が再び耳を劈く。
直後、大地が大きく陥没した。
湖の水が、勢いよく流れ込んでくる。
空気が冷たく湿り気を帯び、土埃がむせかえるように舞った。
相変わらず、俺にはノーダメージだ。
とはいえ、至近距離で受けるその迫力には、否応なく圧倒されるものがある。
俺は意識して口元に余裕の笑みを浮かべ、静かに言い放った。
「無駄だ」
その一言が、空気を震わせた。
ギリリと奥歯を噛み締める音が耳に届く。
「っ! その花びら、厄介ですね……」
「そうだろうとも。お前のような筋肉バカがどうあがこうとも、この俺には絶対にかぺ」
不意に、言葉が詰まった。
豪傑のハンマーが、俺の顔面を直撃したからだ。
もちろん、桜化しているためダメージはない。
だが、勢いだけは凄まじく、言葉の流れがぶった切られた。
「……”かぺ”? さっきから何を言いたいのですか? 言葉も満足に知らない、おマヌケさん」
顔面が熱くなる。
物理的な痛みではない。
これは紛れもなく――屈辱だ。
「…………!!!」
噛み殺した怒りが、喉の奥で脈打つ。
この野郎……。
心の内で呟きながら、無意識に拳を握り締める。
正直、かなりイラッとした。
喉元まで込み上げる怒号を、辛うじて飲み込む。
今は熱くなるべき時ではないのだ。
ここで感情に呑まれたら、それはすなわち広い意味での敗北を意味する。
この戦いの目的。
それは格の違いを見せつけ、従わせること。
そのためには――
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