マズい!
来る――
だが、すぐに冷静さが戻る。
大丈夫だ。
避けようとしたのは、あくまで保険。
奴の拳は何度も受けてきた。
愚直なまでに直線的な攻撃。
わずかばかりのダメージは受けるかもしれないが、大ダメージを受けることはあり得な――
「【六王断(ろくおうだん)】!!!」
その瞬間、世界が反転したかのようだった。
「ぐはっ!」
腹の奥から、鈍く重たい痛みが這い上がってくる。
視界が跳ね、地面が近づいてくる。
俺の『散り桜』の結界を貫通し、肉を、骨を、魂を打ち抜くような一撃が、直撃した。
「私を見くびり過ぎです。白夜湖を支配していた『六王獣』……私は奴らから学び、六属性を体得しています」
声の主は悠然としていた。
激しい攻撃の割には乱れていない呼吸、揺るがぬ言葉。
まるで、今の攻撃がほんの序章であるかのような余裕が、彼の背後に影のように立ち込めていた。
「六属性……だと?」
掠れる声で問い返す。
喉の奥が焼けつくように痛む。
「ええ。残念ながら私には妖術の適性がないようで、個別の攻撃妖術は使えません。しかし、闘気に混ぜ合わせて打撃に練り込むことはできるのです」
「なるほど。それで、この威力か……!!」
六属性。
具体的にどれが含まれているのか、今は分からない。
だが、思い当たる属性はいくつかある。
火、水、風、土、雷が定番か。
さらに光、影、植物、重力、聖、闇あたりが含まれている可能性もある。
俺の『散り桜』は物理攻撃を無効化するが、魔法や妖術には無力だ。
特に、火属性には弱い。
もしも、六種の中に火の性質が含まれていたなら――。
彼の怪力と相まって、その攻撃力は凄まじいものとなるだろう。
「あなたの手札は、把握しました。降参するなら今のうちです」
静かに、だが冷酷に、豪傑は告げた。
その口調には一切の揺らぎがない。
計算された勝利の余裕。
「するわけないだろ。……だが、そうだな。お前を侮っていたよ。謝罪しよう」
素直に認めるのは、敗北ではない。
誤算を認め、次に活かす。
それが俺の流儀だ。
10分間。
最初に定めた戦いの制限時間は、とうに過ぎている。
油断と過信が生んだ代償は、肉体にも精神にも刻まれた。
「俺はもう、お前を格下とは思わねぇ。全力で叩き潰させてもらう……!!」
「こっちの台詞です! ――【ホーク・ドライブ】!!」
気迫がぶつかり合う。
次の瞬間、轟音と共に、豪傑が巨石を手にし、怒涛の如く天に投げた。
厄介な時間差攻撃だ。
「「うおおおおおぉっ!!!」」
裂ける空気、飛び交う岩石。
世界がぶつかり合う音が響き渡る。
生き残るには、もはや一切の容赦を捨てるしかない。
こうして、戦いは熾烈を極めていくのだった――。
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