「ぜぇ、ぜぇ……。お、俺の勝ちだ……!!」
「くっ……! ううぅ……!!」
最初の激突から、数十分は経過しただろうか。
俺と豪傑は、疲労困憊となっている。
豪傑は満身創痍で、まともに立っているのもやっとという状態だ。
一方の俺も、体力の消耗が激しい。
膝の震えを隠すこともできず、額からは冷や汗が流れている。
だが、治療魔法のおかげで、致命的な傷はない。
「はぁ……はぁ……。認めろ、俺が勝者だと」
「ま、まだです! 私は負けていません!」
「いいや、お前の負けだ。……一対一の決闘は、お互いへの敬意が前提にある。ゴネて『何でもあり』になれば、結局はこちらが得をする。今のうちに敗北を認めた方が、お前のためだぞ」
俺は、ゆっくりと一歩踏み出しながら言った。
少し離れたところからは、流華、無月、幽蓮、その他の忍者たちが観戦している。
事前の取り決めを度外視して『何でもあり』で戦うなら、こちらの勝利は揺るがない。
「くっ……!!」
豪傑が歯嚙みする。
その様子には悔しさがにじんでいた。
理屈では理解しているのだろう。
だが、彼の中になる絶対的な『何か』が、他者への恭順を良しとしない。
そんなところか。
「……なにも、桜花藩に全面服従しろというわけではないのだ。好待遇で迎えよう。お前が何を目指して武者修行をしているのか知らないが、望むのならば前線で戦ってくれてもいい」
俺は声を落とし、真正面から彼を見つめた。
使い捨てるには惜しい――心からそう思った。
彼ほどの実力者、みすみす見逃す手はない。
こちらが譲れる部分では譲る。
妥協できるところは妥協する。
それが勝者の義務であり、器量というものだ。
「俺は女好きだ」
突然の告白に、豪傑が固まる。
「……は? 突然、何を……?」
「可愛い女がいたら、ついつい声をかけてしまう。この世のすべての美少女を俺の女にしたい」
その言葉は軽薄に聞こえるかもしれない。
だが、俺は真剣だった。
「っ!! ま、まさか私まで――」
「お前にも美少女を斡旋してやろう」
豪傑が警戒心をあらわにした。
どうしてそんな反応をするのか分からない。
俺はスルーして、淡々と言葉を続けた。
「……はい?」
豪傑が困惑したような声を出す。
戸惑いと疑念が交差したような、不思議な声色だ。
「言っておくが、これは特別サービスだぞ? 俺は人の女に手を出すような男じゃないが、フリーの美少女を前に『お先にどうぞ』とみすみす譲る男でもない。本来は、な」
「はぁ……」
呆れ混じりのため息が、彼の口からこぼれ落ちた。
いいぞ。
俺のペースだ。
このまま交渉を続けていこう。
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