あれから12年の月日が経った。 少年は老人のもとで育ち明るく成長する。
小さな村に住む少年は楽しい毎日を送っていく。5歳の頃から老人から戦い方を教わり 狩りを手伝っている。
そして今日は自身の成長を見せるため、一人で狩りを行おうとしていた。
今がまさにその時だ。
少年は草の茂みに隠れ、近くにいる熊のモンスターを見ていた。
「 いた! 今晩のご飯はあいつだな……!」
オレンジ色の髪に、太陽のように生き生きとした瞳。黄色を基本とした服。特徴的なのは頭に着けた赤いハチマキだ。
少年サンは、 熊のモンスターを捕まえるため茂みから勢いよく飛び出す。こちらが物音を立てると熊のモンスターは、はっと振り返っていた。
「 今日はオイラたちの晩御飯になってもらうぞ!」
熊のモンスターは唸り声をあげて威嚇している。 サンは怖がることなくニヤッと笑う。 相手の出方をうかがいながら拳をグッと握りしめた。
「グルルルッ!」
先に動いたのは熊のモンスターだ。 鋭い爪を立て襲い掛かってくる。
成長したサンにとって相手の動きは遅く見えていた。
右腕を引くと、姿勢を低く構える。相手の右手が振り下ろされると同時、サンはひらりとかわす。 相手に隙ができるとカウンター狙いで右拳を放つ。
「はあっ!」
相手の腹へ直撃すると、熊のモンスターはうめき声をあげる。
「ぐ、グルルル……」
前のめりに倒れるモンスター。サンは動かなくなったのを確認すると、跳び跳ねて喜ぶ。
「やった! 今日はご馳走だ!」
「サンー、何してるの?」
背後から声がして振り返る。そこには、見慣れた幼なじみがいた。
紫色の長い髪。ピンク色を基調とした涼しそうな格好をしている少女だ。
「レーナ、丁度いいところに来た! 見てよ、これ!」
気絶している熊のモンスターを指差す。
「えっ……!? サン、これどうしたの?」
レーナが驚いた顔を見せる。
「オイラが一人で倒したんだ!」
「サンが一人で?」
「うん! じーちゃんを驚かせるために初めての狩りを成功させたんだ! オイラってやればできるでしょ?」
サンは嬉しくて笑う。
「そうだったんだ……サン、強くなったね!」
「へへっ、これもじーちゃんの修行のおかげだ!」
「サン、ずっと強くなるために努力してたもんね。今日の狩りを報告したら、シャンウィン様も驚くと思うよ!」
「楽しみだなあ。よーし、さっそくこいつを持ち帰って家まで向かうぞ!」
熊のモンスターをゆっくりと背負うサン。重みがあるが、余裕で家まで運べそうだった。
家にたどり着くまで大体10分ほど。家の方角を見つめ、期待に胸をふくらませる。
「私も着いてきていい? 今日、おじいちゃんが向こうへ泊まりに行きなさいって言ってくれたの!」
「もちろん! ってことは今日の夕飯は……!」
胸を反らし、レーナは笑みを浮かべていた。
「今日は私特製のスペシャルメニューです! 夕食は腕によりをかけて作っちゃうからね!」
「やった! 今日はレーナの晩ごはんが食べられるの!?」
「今日はそのモンスターを使った料理を作ってあげる! 今日はサンが頑張ったご褒美だよ」
レーナの料理が待ち遠しく、サンは家へ走り出す。
「よーし、それならさっそく家に向かうぞー!」
「そ、そんなに急がなくても食材は逃げないってば!」
・・・
木造の家が見えると、サンは近くで立ち止まる。一息つくと、背中に力を入れた。
「さて、着いたことだし! こいつをそろそろ下ろそうかな……よいしょっと!」
背負っていたモンスターを地面に下ろす。
気絶した巨体が動かないのを確認するが、その気配はない。
「シャンウィン様に会うの久しぶりだなぁ。実はおじいちゃんにお土産持っていくように言われてるんだ」
「そうなのか! きっとじーちゃん喜ぶと思うぞ!」
古びた扉の前へ来てドアノブを掴む。
ゆっくりと回すと、年季の入った住宅へと入る。
「じーちゃん、ただいまー!」
視界の先にある長方形の木製テーブル。
白髪交じりの黒髪の老人。特徴もないシャツとズボンを着ている。
椅子に腰掛ける老人に声をかけるが、雑誌を読んでいて反応はない。
黙々と真面目な表情で集中しているようだった。
「ふむ……なかなかいい体つきだ。だが、この子も捨てがたいな」
「むっ……また読んでるな」
サンは頬を膨らまると、早歩きで老人の耳元まで近づく。
こちらに気づいてない事に怒り、息を大きく吸う。胸を反らせ大声で叫んだ。
「帰ったぞおおおおお!」
「おおっ!?」
老人は体を震わせてこちらを振り返った。
目を丸くしながら固まる育ての親に、サンは目を細める。
「ただいま、じーちゃん」
「さ、サン。おかえり、帰ってたのかい」
「またその本読んでたのか……スケベ」
サンがきっぱり言うと、育ての老人――シャンウィンは頭を掻いて戸惑っている。
沈黙の雰囲気が続きそうになると、レーナが苦笑いの表情をしながら言った。
「ま、まあまあ。シャンウィン様だって、そういうの興味あると思うし……ね?」
「そ、そうさ。私もこういう物に興味があって……」
「やっぱりスケベじゃん」
サンの真顔がシャンウィンへと向けられる。
「う……そ、それより遅かったね。今日はどこへ散歩してたんだい?」
「話を逸らしたな……まあいいか。じーちゃん、今日はレーナも来てるよ」
レーナに視線を移すと、彼女はぺこりと頭を下げている。
「お邪魔します、シャンウィン様。今日は久しぶりに泊まりに来ました。あと、おじいちゃんからこの前のお礼にプレゼントを持ってきました」
「レーナ、いらっしゃい。プレゼントありがとう、今日もゆっくりしていってくれ」
シャンウィンに顔を近づけ、サンは嬉しそうに口を開く。
「聞いて、じーちゃん! 今日、初めて1人でモンスターの狩りに言ったんだ!」
サンが自慢げに言うと、シャンウィンは眉をぴくりと動かした。
「ほう、それは本当かい?」
「嘘だと思うなら見てきてよ! 家の前にモンスターが気絶してるから!」
シャンウィンは考え込んだ様子を見せると、自宅から外へ出る。
サンも彼の後に続く。
モンスターが倒れている場所へやって来ると、証拠を見せるため指をさす。
シャンウィンの驚いた顔が目に映ると、サンは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「このシッコクグマはまだ子供だが……ここまで強くなるとは」
一人で小さく呟くシャンウィン。
「いつもじーちゃんの手伝いばかりだったから、頑張ったんだ! オイラ、すごいでしょ?」
サンの頭を撫で、シャンウィンは優しい笑顔を見せた。
「サン、努力を怠らず成長したね。ここまで強くなって嬉しいよ。今日の食材、ありがとう」
「へへっ、やった」
サンは照れくさく、頬を人差し指で掻く。
扉の前にいたレーナも温かい眼差しで、こちらを見ていた。
「ふふっ、良かったね。サン」
「……そろそろ決意を固めるときかもしれない」
シャンウィンが真剣な表情でサンを見つめている。
「どうしたの、じーちゃん?」
「サン、話があるんだ。もし、お前さんが成長したら――」
「しゃ、シャンウィン様! 大変だー!」
シャンウィンが何か言いかける途中、一人の青年が息を切らして走り寄ってくる。
サンたちの目の前で立ち止まると、肩で息をし始めた。
「カイルじゃないか。そんな慌てた様子を見せてどうしたんだい?」
「さ、山賊が村を襲ってきたんだ。村長が追い返そうとするけど、なかなか帰ってくれないんだ。一人だけ強そうな奴もいるしどうしたらいいか……」
レーナが不安混じりの顔で言った。
「私がいない間にそんなことが!? おじいちゃん大丈夫かしら……」
「じーちゃん、それなら早く行こうよ! 一緒に山賊たちを追い返そう」
シャンウィンは頷くと青年の右肩に手を置く。
「ああ。カイル、知らせてくれてありがとう。急ごう、村長たちの身が心配だ」
シャンウィンは走り出し、続くようにサンたちも急ぐ。
目指すは森を抜けた先にあるサンサン村。
サンは不安と必死の思いで足を止めなかった。
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