太陽のブレイヴ

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第1クエスト その名はサン

公開日時: 2020年11月25日(水) 18:05
文字数:3,162

 あれから12年の月日が経った。 少年は老人のもとで育ち明るく成長する。

 小さな村に住む少年は楽しい毎日を送っていく。5歳の頃から老人から戦い方を教わり 狩りを手伝っている。

 そして今日は自身の成長を見せるため、一人で狩りを行おうとしていた。

 今がまさにその時だ。

 少年は草の茂みに隠れ、近くにいる熊のモンスターを見ていた。


「 いた! 今晩のご飯はあいつだな……!」


 オレンジ色の髪に、太陽のように生き生きとした瞳。黄色を基本とした服。特徴的なのは頭に着けた赤いハチマキだ。

 少年サンは、 熊のモンスターを捕まえるため茂みから勢いよく飛び出す。こちらが物音を立てると熊のモンスターは、はっと振り返っていた。


「 今日はオイラたちの晩御飯になってもらうぞ!」


 熊のモンスターは唸り声をあげて威嚇している。 サンは怖がることなくニヤッと笑う。 相手の出方をうかがいながら拳をグッと握りしめた。


「グルルルッ!」


 先に動いたのは熊のモンスターだ。 鋭い爪を立て襲い掛かってくる。

 成長したサンにとって相手の動きは遅く見えていた。

  右腕を引くと、姿勢を低く構える。相手の右手が振り下ろされると同時、サンはひらりとかわす。 相手に隙ができるとカウンター狙いで右拳を放つ。


「はあっ!」


 相手の腹へ直撃すると、熊のモンスターはうめき声をあげる。


「ぐ、グルルル……」


 前のめりに倒れるモンスター。サンは動かなくなったのを確認すると、跳び跳ねて喜ぶ。


「やった! 今日はご馳走だ!」

「サンー、何してるの?」


 背後から声がして振り返る。そこには、見慣れた幼なじみがいた。

 紫色の長い髪。ピンク色を基調とした涼しそうな格好をしている少女だ。


「レーナ、丁度いいところに来た! 見てよ、これ!」


 気絶している熊のモンスターを指差す。


「えっ……!? サン、これどうしたの?」


 レーナが驚いた顔を見せる。


「オイラが一人で倒したんだ!」

「サンが一人で?」

「うん! じーちゃんを驚かせるために初めての狩りを成功させたんだ! オイラってやればできるでしょ?」


 サンは嬉しくて笑う。


「そうだったんだ……サン、強くなったね!」

「へへっ、これもじーちゃんの修行のおかげだ!」

「サン、ずっと強くなるために努力してたもんね。今日の狩りを報告したら、シャンウィン様も驚くと思うよ!」

「楽しみだなあ。よーし、さっそくこいつを持ち帰って家まで向かうぞ!」


 熊のモンスターをゆっくりと背負うサン。重みがあるが、余裕で家まで運べそうだった。

 家にたどり着くまで大体10分ほど。家の方角を見つめ、期待に胸をふくらませる。


「私も着いてきていい? 今日、おじいちゃんが向こうへ泊まりに行きなさいって言ってくれたの!」

「もちろん! ってことは今日の夕飯は……!」


 胸を反らし、レーナは笑みを浮かべていた。


「今日は私特製のスペシャルメニューです! 夕食は腕によりをかけて作っちゃうからね!」

「やった! 今日はレーナの晩ごはんが食べられるの!?」

「今日はそのモンスターを使った料理を作ってあげる! 今日はサンが頑張ったご褒美だよ」


 レーナの料理が待ち遠しく、サンは家へ走り出す。


「よーし、それならさっそく家に向かうぞー!」

「そ、そんなに急がなくても食材は逃げないってば!」




・・・



木造の家が見えると、サンは近くで立ち止まる。一息つくと、背中に力を入れた。


「さて、着いたことだし! こいつをそろそろ下ろそうかな……よいしょっと!」


 背負っていたモンスターを地面に下ろす。

 気絶した巨体が動かないのを確認するが、その気配はない。


「シャンウィン様に会うの久しぶりだなぁ。実はおじいちゃんにお土産持っていくように言われてるんだ」

「そうなのか! きっとじーちゃん喜ぶと思うぞ!」


 古びた扉の前へ来てドアノブを掴む。

 ゆっくりと回すと、年季の入った住宅へと入る。


「じーちゃん、ただいまー!」


 視界の先にある長方形の木製テーブル。

 白髪交じりの黒髪の老人。特徴もないシャツとズボンを着ている。

 椅子に腰掛ける老人に声をかけるが、雑誌を読んでいて反応はない。

 黙々と真面目な表情で集中しているようだった。


「ふむ……なかなかいい体つきだ。だが、この子も捨てがたいな」

「むっ……また読んでるな」


 サンは頬を膨らまると、早歩きで老人の耳元まで近づく。

 こちらに気づいてない事に怒り、息を大きく吸う。胸を反らせ大声で叫んだ。


「帰ったぞおおおおお!」

「おおっ!?」


 老人は体を震わせてこちらを振り返った。

 目を丸くしながら固まる育ての親に、サンは目を細める。


「ただいま、じーちゃん」

「さ、サン。おかえり、帰ってたのかい」

「またその本読んでたのか……スケベ」


 サンがきっぱり言うと、育ての老人――シャンウィンは頭を掻いて戸惑っている。

 沈黙の雰囲気が続きそうになると、レーナが苦笑いの表情をしながら言った。


「ま、まあまあ。シャンウィン様だって、そういうの興味あると思うし……ね?」

「そ、そうさ。私もこういう物に興味があって……」

「やっぱりスケベじゃん」


 サンの真顔がシャンウィンへと向けられる。


「う……そ、それより遅かったね。今日はどこへ散歩してたんだい?」

「話を逸らしたな……まあいいか。じーちゃん、今日はレーナも来てるよ」


 レーナに視線を移すと、彼女はぺこりと頭を下げている。


「お邪魔します、シャンウィン様。今日は久しぶりに泊まりに来ました。あと、おじいちゃんからこの前のお礼にプレゼントを持ってきました」

「レーナ、いらっしゃい。プレゼントありがとう、今日もゆっくりしていってくれ」


 シャンウィンに顔を近づけ、サンは嬉しそうに口を開く。


「聞いて、じーちゃん! 今日、初めて1人でモンスターの狩りに言ったんだ!」


 サンが自慢げに言うと、シャンウィンは眉をぴくりと動かした。


「ほう、それは本当かい?」

「嘘だと思うなら見てきてよ! 家の前にモンスターが気絶してるから!」


 シャンウィンは考え込んだ様子を見せると、自宅から外へ出る。

 サンも彼の後に続く。

 モンスターが倒れている場所へやって来ると、証拠を見せるため指をさす。

 シャンウィンの驚いた顔が目に映ると、サンは嬉しそうに笑みを浮かべる。


「このシッコクグマはまだ子供だが……ここまで強くなるとは」


 一人で小さく呟くシャンウィン。


「いつもじーちゃんの手伝いばかりだったから、頑張ったんだ! オイラ、すごいでしょ?」


 サンの頭を撫で、シャンウィンは優しい笑顔を見せた。


「サン、努力を怠らず成長したね。ここまで強くなって嬉しいよ。今日の食材、ありがとう」

「へへっ、やった」


 サンは照れくさく、頬を人差し指で掻く。

 扉の前にいたレーナも温かい眼差しで、こちらを見ていた。


「ふふっ、良かったね。サン」

「……そろそろ決意を固めるときかもしれない」


 シャンウィンが真剣な表情でサンを見つめている。


「どうしたの、じーちゃん?」

「サン、話があるんだ。もし、お前さんが成長したら――」


「しゃ、シャンウィン様! 大変だー!」


 シャンウィンが何か言いかける途中、一人の青年が息を切らして走り寄ってくる。

 サンたちの目の前で立ち止まると、肩で息をし始めた。

「カイルじゃないか。そんな慌てた様子を見せてどうしたんだい?」

「さ、山賊が村を襲ってきたんだ。村長が追い返そうとするけど、なかなか帰ってくれないんだ。一人だけ強そうな奴もいるしどうしたらいいか……」


 レーナが不安混じりの顔で言った。


「私がいない間にそんなことが!? おじいちゃん大丈夫かしら……」

「じーちゃん、それなら早く行こうよ! 一緒に山賊たちを追い返そう」


 シャンウィンは頷くと青年の右肩に手を置く。


「ああ。カイル、知らせてくれてありがとう。急ごう、村長たちの身が心配だ」


 シャンウィンは走り出し、続くようにサンたちも急ぐ。

 目指すは森を抜けた先にあるサンサン村。

 サンは不安と必死の思いで足を止めなかった。

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