太陽のブレイヴ

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第4クエスト 囚われのレーナ

公開日時: 2020年11月25日(水) 19:00
文字数:3,617

 あれからどれほど走ったか、サンは分からない。

 着いた先は村から数キロ離れた広大な草原の丘だった。

 目の前に大きな洞窟を見つけて足を止める。乱れた息を整えて、周囲を見渡す。しかし、人の気配など感じない。

 もう一度、洞窟に視線を戻したとき。奥から昨日の山賊たちが出てくるのだった。

 リーダーである大柄の山賊の視線が突き刺さる。彼は立ち止まって、手に持っていた斧を地面へ振り下ろす。


「ジジイが来るかと思えばガキじゃねえか。まあいい……約束通り、金目の物は持ってきたんだろうな?」

「悪い大人にあげる物なんかない!」

「はあ?」


 山賊たちは理解できてない表情をしている。


「レーナを取り戻すためにここまで走ってきたんだ! さっさと返してもらうからな!」

「くくく……なんて馬鹿なガキだ」


 大柄の山賊は笑いをこらえている。


「なにがおかしいの?」

「まったく。金さえ用意してれば、穏やかに事がすんだのによ。さっさとあの世へ行って後悔しな! 出てこい、ジャイアントパンサー!」


 洞窟の奥から伝わってくる重い足音。ゆっくりと近づいてくるモンスターは正体を見せる。その迫力にサンの心臓が小さく跳ねた。


「グルルル!」


 体長2メートル半ほどある巨大な体格。4足歩行で歩く度に地面に小さな揺れが伝わる。

 黄色に黒い斑点模様、鋭い爪でこちらを威嚇していた。


「なんだこのモンスター……!」

「こいつは俺たちが苦労して手懐けたモンスター、ジャイアントパンサーだ! こいつに食われてさっさとお陀仏になっちまいな!」

「くっ……! オイラは逃げない!」


 サンは拳を構える。


「馬鹿なガキだな……そうだ。そろそろ死ぬんだから、大切な嬢ちゃんに会わせてやるよ」


 大柄の山賊が洞窟に向かって、手招きをしている。部下の山賊と共に連れてこられたのは、両手をローブで縛られたレーナ。彼女は立ち止まると、不安そうな顔でサンを見ていた。


「サン……! 来てくれたのね」

「レーナ! 早くこいつを倒して救い出さないと……オイラがやっつける!」


 ジャイアントパンサーに視線を戻し、足を僅かに動かす。

 獣の鋭い視線が突き刺さる。相手の気迫に体がうずくと、サンは思い切り前に飛び出した。


「行くぞおおお!」


 サンが右拳を握りしめると、相手も体を僅かに動かした。


「グルルル……!」


 相手の姿が消えたと同時、サンの体は空中に吹き飛んだ。


「ぐうっ……!」


 脇腹に蹴られたような痛みが走る。体が地面に転がると、サンは顔をしかめた。


「はははは! ジャイアントパンサーの強さはこんなものじゃねえぜ!」


 大柄の山賊が高笑いする。


「なんて速さだ……! 油断したらあっという間にやられる!」


 サンはゆっくりと立ち上がって身構える。動き回る相手の動きを見極めるが、目線が追いつかない。


「グルルルルルッ!」


 後ろを振り返るとジャイアントパンサーが唸りをあげている。

 近い距離から相手の爪が襲いかかると、咄嗟に横へ転がった。


「くっ……!」

「グルルルルル……!」


 なんとか服の袖が裂けた程度で回避はできたが油断はできない。サンはもう一度立ち上がって両拳を握りしめる。

 今度こそ攻撃を当てるという思いで動きを見極める。僅かにジャイアントパンサーが見えた瞬間、サンは右拳を振り抜いた。


「ここだっ!」


 勢いをつけたパンチは余裕で回避され、サンの体勢はよろけてしまう。しかし、なんとか地面に足をつけて立て直す。

 ジャイアントパンサーは常に動き回っている。サンは追いかけるように走り出して、攻撃を続ける。

 しかし、少しずつ相手の動きが見えてきてもパンチやキックは当たらない。


「おいガキ! もう諦めたらどうだ? お前みたいなひよっ子に勝ち目なんてあるわけねえんだよ!」


 息を切らして疲れが見え始めても、サンは諦めない。


「まだだ……!」

「お前、馬鹿か? このまま戦ったら本当に死ぬぞ」


 大柄の山賊の警告を聞くが、サンの思いは変わらなかった。


「レーナを……助けるまで絶対に死なない! 助けるって決めたときから自分で約束したんだ。オイラの大切なレーナに悲しい顔をさせたくない! だから心配かけないように、最後まで勝利を信じて戦うんだ!」


 レーナを見ると、彼女の不安な表情が少しずつ晴れていく。サンの言葉が届いたのか、こちらに真剣な眼差しを向けていた。


「私が不安になってたらだめだよね。サンがこんなにも頑張って助け出そうとしてるんだから……!」

「いらいらするぜ……! おい、ジャイアントパンサー。さっさとそいつをやっちまえ!」

「グルルルルッ!」


 先ほどより上回ったスピードでジャイアントパンサーは襲いかかる。サンは姿勢を低く構えて、次の攻撃にどうするべきか備えていた。


「くっ!」


 相手の見きれない速さをどう対処するか悩んでいたとき、サンの隣に誰かが駆けつける。


「はああああっ!」


 聞き慣れた声に安心した瞬間、ジャイアントパンサーの体は飛ばされる。相手は洞窟の壁に激突し、いわなだれに埋め込まれる。


「間に合ったか……サン、遅れてすまなかったね」


 助けに来てくれたのはシャンウィンだった。彼の姿を見たとき、サンの頬が思わず緩む。


「じーちゃん……!」

「ちっ……ジジイが来やがったか」


 大柄の山賊が舌打ちをする。

サンはボロボロになった体を動かして、シャンウィンに近寄った。


「じーちゃん、オイラ……」


 昨日の事を謝ろうとする瞬間。体が倒れそうになり、足元がふらつく。シャンウィンはこちらの体を受け止め、頭を優しく撫でてくれた。


「話は後にしよう。ここからは私に任せなさい。いいね?」

「う、うん。でも、じーちゃん。あのモンスター速すぎて攻撃もできないんだ。一体、どうすれば――」


シャンウィンはサンをその場に座らせる。彼は真剣な顔でジャイアントパンサーを見つめていた。


「サン、今からお前さんに新しい技を見せる」

「えっ?」


 サンは突然の言葉に理解できず困惑する。


「これからサンが成長するための大事な技だ。しっかり、覚えておくんだよ」


 シャンウィンは振り返って温かい笑顔を見せていた。サンは思わず唾を飲んで見守ることしかできない。


「グルルルルッ!」


 ジャイアントパンサーが威嚇しながら、姿勢を低く構えている。サンは、思わずシャンウィンの背中に視線を移す。しかし、彼は怯むことなく拳をとっくに構えていた。


「おい、ジャイアントパンサー! そんなジジイ、さっさとやっちまいな!」

「グルルルルアアア!」


ジャイアントパンサーが吠えたと同時、さっきのような素早い動きで襲いかかる。


「じーちゃん!」


 サンが手を伸ばそうとした瞬間、シャンウィンの右手に異変が起こる。


 オレンジ色のオーラが螺旋状に回転し、シャンウィンの右拳を覆う。


 ジャイアントパンサーが口を大きく開け、シャンウィンに襲いかかろうとした瞬間。狙っていたかのように、シャンウィンが右拳を相手の頭へ振り抜く。


「タイヨー拳!」


そう叫んだとき。拳は見事に命中する。ジャイアントパンサーの巨体は、勢いよく吹き飛ばされ、洞窟の壁に激突した。

 拳が命中した相手の頭部をよく見ると、螺旋状の傷がついている。ジャイアントパンサーはその傷を残したまま、地面に倒れ込んで動かなくなった。


「そ、そんな……ジャイアントパンサーを倒した……だと」

「い、今の技って……?」


 サンが驚くと、シャンウィンは笑顔で言った。


「さて……モンスターは倒したが、今度はお前さんたちが挑んで来るかい?」


 シャンウィンの笑顔の裏に隠れた威圧感が、山賊たちを怯えさせている。彼らは後ずさりしながら、苦笑いしている。


「え、えっと……申し訳ありませんでしたー!」


 大柄の山賊は声を震わせて、部下たちを引き連れて遠くへと走り去っていく。姿が遠くなると、サンは急いでレーナの元へ駆け寄った。


「レーナ、怪我はない?」

「ありがとう、サン。私は大丈夫、ただロープで縛られただけだから」

「待ってて、今ロープをほどくから……」


 サンはレーナの体に巻きついたロープをほどく。彼女は自由になると、深くため息をついている。


「ずーっと縛られてきつかったぁ……あの人たち、いきなり村に来たかと思えば強引に連れて行かれたんだから。シャンウィン様も助けてくれてありがとうございます」

「無事でなによりだ、レーナ。連中に襲われて怖い思いをしたね」

「私は大丈夫です。それよりも、私のために頑張ってくれたサンが……」


 レーナは申し訳無さそうな表情でサンを見つめる。確かに体はボロボロだが、サンはそれでも元気な証拠を見せるために笑い飛ばす。


「へへっ。オイラは大丈夫だ、レーナ。それよりも怪我一つなくて無事だったんだ。オイラはそっちのほうが嬉しいよ!」

「サンは優しいね。こんなにボロボロになっちゃって……後で傷の手当てしてあげるからね」

「さあ、そろそろ私たちの村へ帰ろうか。みんな、心配してるからね」

「うん! じゃあ、じーちゃん! レーナ! 急いで村に帰るぞー!」


 片手を思い切り上げながら、サンは飛び跳ねる。自身の村に帰ろうと、駆け足で向かうのだった。

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